行政視察報告
企画経済常任委員会では平成29年7月11日より13日までの3日間で熊本県の3自治体と大分県の1自治体に対して調査をしましたので報告します。
視察目的は大井町では29年度に地域防災計画を見直し中であり、実際に地震を体験した自治体の意見を聴くことで大井町の防災や復旧・復興の参考にしたいとの考えで熊本県の熊本市、嘉島町、西原村を訪問しました。
各市町には2時間の予定をしましたが、実体験の話でありとても時間内では聞ききれるものではありませんでした。
また、大井町の今後の課題でもある人口減少に対する移住定住について大分県竹田市を訪問し移住定住支援について調査しました。
熊本市、嘉島町、西原村での質問事項
- 防災計画について
- 被災状況等の情報収集方法について
- 広域避難所について
- 要配慮者や未登録者の対応について
- 災害時の議会の役割と対応について
大分県竹田市での質問事項
- 空き家対策について
- 移住・定住支援サイトについて
- 移住者に対する雇用について
- 農家民泊について
嘉島町訪問(7月11日午後)
※嘉島町役場:建築家 黒川紀章設計
嘉島町は人口は約9,000人、職員数は72人の規模の町です。
嘉島町へは昨年の地震直後から大井町より職員を派遣し支援してきたこともあり、我々の調査に対し町長、議長さんが最後までお付き合いして頂きました。
荒木町長は間宮町長ともお知り合いであることや東海大学卒業で平塚キャンパスへ通学されていたこともあり、大井町には親しみを感じていられたようでした。
事前に5項目の質問を提出してましたので、その回答を要約して報告します。
1.防災計画について
- 問 地震災害を体験したことから「地域防災計画」を大きく見直す必要があると考えているか
- 答 今年度見直しの予定。体験で得た教訓については別冊を作製することを考えている。
2.被災状況等の情報収集方法について
- 問 タブレット端末利用が有効であったと聞いているが、どうであったか。
- 答 県より3台借用したが、本部と県との連絡用に使用した。広域避難所が一か所であったのであまり利用しなかった。また、町民の安否確認は消防団、警察が中心に行った。
3.広域避難所について
- 問 運営についてはどうであったか
- 答
- 避難所が一か所ということで町民課長以下職員17名が担当した。しかし食料の調達から衛生管理、健康管理、問い合わせや苦情対応、支援団体の対応、炊き出し、マスコミ対応、避難者への情報提供など24時間体制で行ったため職員の身も心も疲弊してしまった。発災直後は何も無かったが時間がたつにつれて支援物資が多数届けられ、避難所もダンボールのパーテーションなどが寄贈され、避難者のプライバシーが確保できた。
- 問題だったのは、職員が頑張ると避難者はお客さんになってしまい何もしなくなり「やってもらってあたりまえ」の状態になった。避難所の自治を確立できるような組織づくりをし、責任者を配置してトイレ掃除や食事の配膳など交代で受け持ってもらった。組織化することで避難所の運営もスムーズになり協力意識が芽生え、その後の仮設や地域の生活にもつながった。(まずは共助を)また、想像した以上に車中泊の避難者が多かった。
- ボランティアセンターなどは設置しなかった。当初はボランティアが熊本市や益城町などマスコミで取り上げられた市町に集中し、嘉島町にはあまり来なかったので熊本市などにお願いして回してもらった。マスコミに対して情報発信は重要であると思った。住民への情報発信は防災無線が有効であった。
- 要配慮者への対応については、名簿は作成してあったが本人の申し出がないと対応が難しかった。包括支援センターが中心となって動いた。
4.発災後の議会の対応について
- 問 議会の役割と対応はどうであったか
- 答 町長の発案で「地震災害対策会議」を設置し区長、消防団幹部、全議員が参加し情報を共有した。会議後に全員協議会を開き方向性を確認した。議員からの要望等については議員個々には出さず自民党県連に一本化した。
5.その他
ゴミ集積所用地と仮設住宅建設用地については事前に準備した方が良い。必ず問題となる。
嘉島町でまとめた震災対応の検証と課題について抜粋
初動対応
- 防災計画における災害対策本部の運営体制が機能しなかった。
- 災害対策本部の業務や職員の配置を詳細かつ具体的にする
- 災害用備蓄品の整備が出来ていなかった
- 町として災害用備蓄品の整備を進めるとともに、住民に対し家庭内備蓄(3日分程度)の普及を促進する
- 町内の災害応援協定先の企業等も被災し協定が機能しなかった
- 災害応援協定を広域化する
- 要配慮者や避難所以外の避難者の把握が出来なかった
- 車中泊等の避難所以外の避難者に対し、情報や支援物資の提供等の支援を徹底するため重要となる
災害全般
- 国のプッシュ型支援により物不足は解消したが、一般からの受け入れも含め物資受け入れに課題(プル型への移行)
- 配送されてくる物資について、24時間の受け入れ態勢
- 物資を受け入れる施設、スペースの確保
- 被災した周辺自治体間での調整、連携
- 災害対応の方法や時期が自治体毎に違うことにより、被災者の行政に対する不満や不信感が生じる(相談窓口、家屋被害調査、義援金の取り扱い等)
- 災害対応を担う職員に対する心身のケア
- 職員自身が被災していたり、災害業務が多大で疲労・疲弊が激しくなる
- 自治体職員をはじめとする各種団体等の人的支援の受け入れ態勢の整備
- 大規模災害に対する災害対応については、完全なマンパワーの不足となるため人的支援の受援計画及び業務継続計画(BCP)の整備が必要
- 大規模災害においては「公助の限界」があるため、地域コミュニティにおける「自助・共助」の促進・啓発が、災害対応やより良い復興に不可欠
感想
最後に町長の発言で印象的だったのは「発災直後、住民の安否確認が終わってからは全ての事に想定外の費用が発生する。議会の議決や町の予算以上の費用に対して責任は自分が取るから安心して実行せよと判断してきました。結果的には住民の安心感を得ることになり、判断は誤りではなかった。」と話されたことです。災害時にいかにトップの判断力が重要かと感じました。
熊本市訪問(7月12日午前)
※修復中の熊本城はオリンピックまでには完成させるそうです。しかし、石垣は30年掛かるそうです。
熊本市は人口73万人の政令市であり、避難所が260か所と大井町とは規模も大きく違うがタブレット端末を利用して避難所の管理運営ができるシステムを導入したと報道されていたので実態を聞きたいと訪問しました。
1.避難所について
- 当初避難者が多くの公的機関に押し寄せ通常業務はできなかった。議会棟の委員会室なども避難所として利用した。
- 指定避難所以外にも多くの避難者が押し寄せたため全てを避難所として認定して対処した。
- 後日、どこに避難したかアンケートを取った結果、指定避難所:34.1%、指定以外:36.6%、車中泊:39.2%という結果になり避難所に入りきれない人や揺れに不安がある人達が車中泊した数が想像以上多かった。
課題
- 避難所運営 市職員は固定化した方が良い(クレームが少なくなる)
- 福祉避難所を予定したところにも多くの人が押し寄せてきた(事前のPR不足)
- 被災当初の職員の出勤率が50%だった
- 国のプッシュ型支援が最初は水、おにぎり、バナナが中心であったが、国の物資集積所から現地に届くまで7時間もかかった。さらに小型自動車で各避難所まで時間がかかった。国の集積所の管理から輸送まで業者(佐川急便)に委託したらスムーズに流れた。
- 避難所対策の整備強化
- 平時から学校区単位で防災連絡会を整備しておく(コミュニティを作りやすい)
- 日頃から学校単位の避難所運営委員会を設立し役割やルールを決めておく
役所(地域に居住する職員を含む)―地区(自治会、子供会)―学校
- 避難所となる学校には以下の設備があるとよい
- 発電機などの非常電源(Wifiなどの通信設備、携帯電話機充電用)
- LPガス備蓄倉庫(炊き出し用)
- 中水道設備
「くまもとRねっと」について
- 前震発生直後日本マイクロソフト社から申し出があり2週間後に運用開始
- 本庁と避難所間の情報提供(避難所配置の職員への連絡、避難所の人数確認、弁当の注文、避難所ボランティア情報、車中・テント等で生活している人への情報提供避難所間の情報共有)
「くまもとRねっと」に関する職員の声
- 避難者からの相談対応に使用し、必要な情報提供ができ喜ばれた(安心された)ことは良かった
- 顔を見ることができないが、各避難所等の頑張りが確認できたこと
- 他の避難所の様子を知ることができ、そのことにより市の被害全体像・負荷の重い地区・地域を可視化することができた。これにより、人員・物資の適切な投入先を決定しやすくなり、また、投入計画を立てやすくなった
- どうしても細かい疑問、依頼等は携帯電話で連絡を行うことが多かったが、避難所が一斉に情報を共有することができるのが有益だった
2.議会の対応について
- 事務局が議員の安否確認。地震発生直後は携帯電話がつながりにくく、議員の安否確認に時間を要した
- 議員からの要望等は事務局で取りまとめて関係課に伝えたが、一部、議員個人による直接的な動きもあった
- 市議会として、共通認識を持ち、災害時に対応できる体制の整備を図ることを目的とした「熊本市議会災害対策会議」の設置要綱を制定した
- 議員により収集した被災情報を、熊本市災害対策本部に提供すること
- 市本部から報告を受けた災害情報を、議員に提供すること
- 市本部に要望及び提言を行うこと
- 国、県その他関係機関に対し要望活動を行うこと
感想
政令市ということで規模が違いあまり参考にならないのではないかと思ったが、個々の事例の説明を聞いていると規模の大小には関係なく避難者の行動や職員の役割については同じであると思った。システム的には小規模の大井町には必要としないものもあるが、指定避難所の学校や各地区の自治会館などの数からすると混乱しているときには情報の共有や記録に残る方法が良いと思えた。
西原村訪問(7月12日午後)
西原村は人口7,049人という小さな酪農を中心とした村だ。今回の地震では村内に活断層が走っており、全半壊が55.7%と比率では一番被害の多かった自治体だ。集落によっては80%以上のところがあったようだ。
これだけの建物被害がありながら死者が8名(関連死3名含む)と大変少なかったのは、事前の訓練と消防団等の活躍が有ったと町長の話があった。その消防団は8分団255名の団員を要する組織であり、大井町と比較すると人口が半分以下なのに消防団員は2倍という規模だ。
2回の地震は夜中に起きたが、住民の安否確認は消防団により明け方までには完了していたとのことだ。集落ごとに消防団があるため日頃より住民の生活状況を把握しており、救援活動も迅速に行われた結果として被害者を最小限にとどめた結果につながったようだ。
1.防災計画について
- 防災計画に基づいて訓練も実施してきており、その訓練が役立った。今後は地震災害と風水害を分けたものを作る予定。
- 地震後1年たった今年の5月28日に住民約2400人が参加した防災訓練が実施された。
- 各消防団に配備したタブレット端末により、各地域の被災状況や避難状況等の画像を役場の対策本部へ送信することで各地区の状況などを確認した。
2.被災状況の情報収集方法について
- 基本的には各地区に消防団があり夜明けまでには安否情報から被災情報まで把握し無線で本部に報告した。
3.広域避難所について
- 集落ごとに6か所設置。出来るだけ地元の職員を配置した。
- 運営については地区が自主的に動いたのでクレームなどはほとんどなかった。
- 福祉避難所については地域に任せて、あえては設置しなかった。
- 飲料水はすぐに支援されたが、生活用水に苦労した。
4.議会の対応
- 小さな村なので発災後2時間で議員全員が集合できた。
- 各議員が要望を出すのではなく、議会で一本化した。
- 議会は執行者側と同列の立場でなく、下につくようにした。
- 議員を地区担当制にした。
- 議員の連絡にはグループラインを利用した。発災後電話、携帯電話は使用不可能であったがラインは使用可能であった。
感想
小さな村に未曽有の大災害。村の半数以上が破壊されたが日頃から地域ごとのコミュニティづくりがされており、スムーズな行動がとれたようだ。消防団員の数には驚かされた。村長も議長も消防団のOBという間柄。全てにおいて縦と横のつながりがうまく機能したと感じた。
発災後、町長の指示で役場1階に町長以下全職員を集め、被災情報、住民の依頼や、相談事が全員に聞こえるようにし、情報を共有化した。2か月間その体制を維持し、町長は毎日全避難所を訪問し避難者を激励しつづけ、村民との絆を強くしていったとのこと。また月1回、2年間防災無線で村民を励まし続けた。このように強いリーダーシップを発揮した結果、村全体が復旧・復興にまとまったのではないかと思った。
大井町では西原村と置かれている状況が異なるので同様なことはできないが、自治会を中心としたコミュニティづくりが重要だと感じた。
大分県竹田市訪問(7月13日)
竹田市へは人口減少に対する移住・定住について調査してきました。
平成17年4月に1市3町合併時26,534人有った人口が28年には23,278人と4,190人減少した。また、65歳以上の高齢化率が44.8%と少子高齢化が進んでいる。市の総面積は大井町の33倍の477.67㎢でその70%が山林原野だ。
移住・定住について
竹田市は少子・高齢化・過疎化をどう克服するかが、最大の課題であり、空き家が多く、田畑も荒廃しつつある。都会でリタイヤした団塊の世代が終の棲家を、不惑・知命世代が人間らしい生活ができる場所を探し求めている時代であることを、30代を中心とする子育て世代が、豊かな自然の中でのびのびと子育てができる環境を求めていることを受け止め、日本の農村の受け皿としての位置づけを明確にして、移住・定住を促進するということをコンセプトに平成21年4月に「農村回帰」を宣言した。
2015年には廃校を活用した竹田総合学院を整備して芸術家の制作拠点として貸し出した取り組みや、「農村回帰」を標榜し移住定住の受け入れに力を入れた施策が評価され文化庁長官表彰を受けた。
移住・定住促進のための制度例
- 移住・定住促進のため農村回帰支援センターを設立
- 移住相談のワンストップ化を実現
- 竹田市集落支援員制度制定(農村回帰マネージャー・移住コンシェルジュ)⇒ 移住者に移住先の習慣や共同作業などの情報を事前に提供し、移住先の住民と良好な関係を築くことは移住の成功に不可欠。移住先の住民と移住者の間に入り移住がスムーズに行われるようにサポートする制度。
【対応マニュアル例】
- 移住先の自治会役員との顔合わせ仲介
- 自治会長等と連携して移住者へ情報提供
- 近所へあいさつ回り
- ゴミの分別・出し方、ゴミステーションの場所等
- 地区行事、自治会行事、自治会費等についての説明
- 水道組合があればその負担金について説明
- 自治会への加入促進
- 移住後に孤立しないように相談相手としての役割
- 空き家バンク制度 ⇒ 空き家情報については水道・郵便局員の情報を重視している
- 平成17年から開始
空き家の持ち主が「空き家バンク」に登録し登録物件を市のホームページで公開 - 市内には空き家が多いがなかなか登録してもらえない
固定資産税納付通知書等を送付する際「空き家バンク登録のお知らせ」を同封 - 不動産業者との連携。連絡会議を開催し制度に協力をお願いする
【結果】
- 平成29年3月末 登録物件数 233件
- 平成29年3月末 移住希望登録者数1,077世帯。大分県を含む九州内が517世帯、竹田市内が230世帯、関東139世帯、関西89世帯、その他地域102世帯
- 平成28年度移住実績 14世帯(35人)
- 平成17年から開始
- 農村回帰助成制度
- 空き家活用奨励金
- 空き家改修事業補助金
- 空き家バンク登録前の空き家改修事業補助金
- お試し暮らし短期滞在費助成金
- 歴史・文化資源活用型起業支援事業補助金(芸術家募集)
- 空き店舗対策事業補助金
- 起業家育成支援事業補助金
- Uターン促進住宅取得・住宅改修事業補助金
- 三世代同居等定住支援事業補助金
- 子育て定住促進住宅の建設(23年から開始6戸建設)
- 合同企業面接相談会(就業場所の確保)
- 月刊誌「いなか暮らしの本」2015年2月号
⇒チャレンジしたい若者におすすめの田舎部門 第1位
竹田市の農村民泊について
(質問事項)
- 問 民泊受け入れ農家の抽出や指導は、どのように行われているか
- 答 制度を始めた時から農家の副業的な取り組みとして行ってきた。開業に当たっては、保健所や消防の許可が必要なため説明会を開催し希望者を募った。開業説明会は案内チラシを市報に入れて全戸配布した。
- 問 誘客はどのように行っているか
- 答 竹田市観光ツーリズム協会が窓口となり旅行会社等からの受け入れをしている。韓国や台湾で開催される商談会に参加している。最近では韓国から農業研修が中心となっている。
- 問 民泊の料金や農家の年収は
- 答 1泊2食付きで6,000円、年収は個人差が有るが約70万円から100万円ぐらい。
- 問 今後の懸案
- 答
- 開業希望者の掘り起こし(平成29年度開業予定者2名)
- 施設整備
- 消防法関係(火災報知器、防火カーテン等)
- Wifi環境整備
- インバウンド対応
- 近隣市と連携した修学旅行等の受け入れ対応の実現
感想
竹田市は少子高齢化が毎年進んでおり、市の総面積も非常に広いため今後の財政等を考えると移住・定住に積極的に取り組んでいかざるを得ないことが感じられた。そのため補助制度を充実させ、芸術家などを積極的に呼び込み、市のイメージづくりや子育て世代への支援も充実させ人口増に努力されている。